初期メンバーは業務委託が正義なのか

「まずは業務委託で」は、人探しを外注せよという意味ではない。本当に採用したい人と、契約を固定する前に一緒に働け、という話だと思う。

01Personこの人と働きたい
02Work小さく一緒に働く
03Contract関係に合う器を選ぶ

正しい助言と、誤った読み替え

起業すると、「最初から正社員を採用せず、まずは業務委託で入ってもらったほうがよい」と言われる。実際に起業してみて、この助言はかなり正しいと思った。

日本では、一度正社員として採用すると、会社と本人が合わなかったときに簡単には元へ戻せない。しかも初期の会社では、一人の不一致が組織全体に与える影響が大きい。大企業なら配置転換で吸収できる不一致も、三人や五人の会社では吸収できない。

技術力は高いが仕事の進め方が合わない。本人は専門領域に集中したいが、会社は誰の担当でもない仕事まで拾ってほしい。人としては好きだが、一緒に会社を作る相手ではなかった。面接だけで、これらを見抜くのは難しい。

ただし、「採用したい人にも、まず業務委託で入ってもらう」と「業務委託プラットフォームで初期メンバーを探す」は、まったく別の話である。

そもそも、スタートアップの初期メンバーとは

業務委託か正社員かを考える前に、そもそもスタートアップの初期メンバーとはどんな人なのかを整理したほうがよい。

初期メンバーに必要なのは、ある職種の仕事を高い品質でこなすことだけではない。少ない人数、少ない資金、少ない情報の中で、事業を前へ進めるサイクルそのものを回せることである。

01

自分で仮説を作り、リーンに回せる

指示されたタスクを待つのではなく、事業の目的から次に確かめるべきことを決める。最小限のものを作って顧客に見せ、反応から学び、続けるか捨てるかをすぐ決める。この一周を自分で設計し、高い回転数で繰り返せる。

02

職種の境界を越えられる

エンジニアだから開発だけ、営業だから商談だけ、と自分の役割に閉じない。顧客対応、採用、資料作成、運用まで、そのとき事業を止めているものがあれば拾う。専門外でも、必要な水準まで学んで前へ進められる。

03

チーム全体の回転数を上げられる

一人で速く動くだけではなく、途中の仮説、違和感、失敗をすぐ共有する。互いの文脈を高い密度で揃え、認識合わせや手戻りにかかる時間を減らす。密なコミュニケーションによって、少人数のチーム全体を速くできる。

別の言い方をすれば、初期メンバーとは、自分で仕事を作り、必要なら役割を越え、チームの試行錯誤を速くできる人である。一つのタスクを完了することではなく、会社が学ぶ速度を上げることに価値がある。

一方で、法務、デザイン、開発などの専門家に、責任範囲を切り出して依頼する仕事もある。プラットフォームで、必要なスキルと稼働時間を持つ人を探す仕事もある。どちらも会社に必要だが、それだけで初期メンバーになるわけではない。

POINT

初期メンバーとは、決められた仕事を受け取る人ではない。自分で仮説と仕事を作り、役割を越え、チーム全体で事業を速く回す人である。

だから「初期メンバーは、まず業務委託で」という助言は、業務委託で人を探せという意味ではない。この人には初期メンバーに必要なものがある、と本気で思った相手にも、いきなり雇用を固定せず、まず一緒に働いてみるという意味なのだと思う。

正社員では採用したくない人を、責任の軽い業務委託なら採ってもよい、という話ではない。むしろ逆である。本当に採用したい人だからこそ、双方が仕事の現実を見たうえで長期の関係を選ぶために、業務委託という入口を使う。

プラットフォームが測れるもの、測れないもの

業務委託プラットフォームが悪いわけではない。良いエンジニアもいるし、仕事の範囲が明確なら非常に便利である。

ただし、プラットフォームが見つけやすくしているのは、共同創業者に近い初期メンバーではない。特定の技術、単価、稼働時間、開始可能日。つまり、比較しやすい条件である。

一方で、初期メンバーに必要なのは検索しにくいものばかりだ。事業そのものへの関心、答えのない問題を抱え続ける力、自分の担当外に落ちた仕事を拾う姿勢、短期的には無駄に見える基盤づくり。これらはプロフィールの検索条件にならない。

POINT

プラットフォームにいる人が難しいのではない。プラットフォームで選別できるものと、初期メンバーに必要なものがずれている。

また、フリーランスが複数の顧客を持ち、一社への依存を避けるのは合理的である。会社側が業務委託という関係を選んでおきながら、正社員や創業メンバーと同じ熱量、長期目線、当事者意識を当然に期待するのは、少し虫がよすぎる。

もちろん、強い当事者意識を持つフリーランスもいる。逆に、正社員だから持っているとも限らない。問題は肩書ではなく、契約で買っていないものまで期待してしまうことにある。

業務委託が成立するのは、仕事にインターフェースがあるとき

ソフトウェアにはインターフェースという考え方がある。雑にいうと、「何を渡せば、何が返ってくるか」という境界である。業務委託にも同じものが必要なのだと思う。

  1. 入力が決まっている

    依頼に必要な情報と、発注側が準備するものがわかっている。

  2. 完成が決まっている

    何を、いつまでに、どの品質で作れば完了なのかを双方が判断できる。

  3. 責任の境界が決まっている

    問題が起きたときに、誰が判断し、誰が最終責任を持つかが明確である。

この境界が決まっていれば、会社の外に仕事を切り出せる。逆に、境界が決まっていない仕事は、契約書だけ業務委託にしても実態としては切り出せていない。

スタートアップの中核業務は、何を作れば正解なのか自体がまだわからない。いわば、インターフェースを作っている途中である。この状態で中核業務を丸ごと外へ出すと、成果物だけでなく、事業に必要な学習まで外へ出ていく。

特に、エンジニア出身ではない経営者がプロダクト開発そのものを丸投げするのは難しい。自分でコードを書けないことが問題なのではない。何が難しく、どこまで完成し、なぜ遅れているのかを評価できないまま、会社の中核を外へ預けることが問題なのである。

「自分たちにできないから外へ出す」と「自分たちが責任を持って定義した仕事を外へ出す」は、似ているようで逆である。

よい人ほど、まず一緒に働く

一方で、「この人はめちゃくちゃいい」と思った人を正社員で採用しても、うまくいかないことはある。人柄がよいことと、仕事の進め方が合うことは違う。技術的に優秀なことと、初期企業の混乱を楽しめることも違う。

だから、良いと思った人ほど、まず小さく一緒に仕事をしてみる。ただし、これは相手を安く試すためではない。会社も相手から試されている。

01

会社を見る

経営者は約束を守るか。意思決定は速いか。必要な情報を隠さず渡すか。

02

仕事を見る

曖昧な状況でどう判断するか。担当の境界に落ちた問題を、誰が拾うか。

03

関係を見る

率直なフィードバックを交換できるか。双方が、より長く働きたいと思えるか。

業務委託期間は、一方的な試験ではなく、双方が観察する期間である。少なくとも、雇用の責任だけを避けるための安価な試用期間にしてはいけない。

初期メンバー探しは、調達ではなく関係づくり

人月、単価、スキルで人を探し始めると、人間を交換可能な部品のように見てしまう。しかし初期メンバーに求めているのは、まだ存在しない会社を一緒に作ることである。

だから順番は、人、仕事、契約になる。まず、この人と働きたいと思える人を探す。小さな仕事を一緒にやる。能力だけでなく、判断基準や仕事の癖を見る。会社側も、情報、意思決定、適正な報酬を提供する。そして双方が望むなら、より長期の関係へ移る。

「初期メンバーは、まず業務委託で」は正しい。ただし、「本当に採用したい人であっても、契約を固定する前に、まず一緒に仕事をしてみる」と読み替える。

仕事が明確なら、業務委託は強い。仕事そのものを一緒に定義してほしいなら、必要なのは発注先ではなく仲間である。

結局、初期メンバー採用で確かめるべきなのは契約形態ではない。その人と会社が、まだ境界のない仕事を一緒に背負えるかどうかなのだと思う。