フランス人エンジニアを雇った話。
初期メンバー・言葉・文化。

会社の3人目のメンバーとして、フランス人の開発エンジニアを採用した。結果として、採用してよかったと思っている。ただし、これは一人の人間についてのN=1の話である。外国人採用を一般化して勧めるのではなく、今回よかったことと難しかったことから、初期の会社で人を雇うことを考えたい。

真にフルスタックな人を、海外まで探せる

3人目の開発エンジニアを採用するうえで、まずよかったのは、候補者を日本人だけに限らず探せたことである。

ここでいうフルスタックは、フロントエンドとバックエンドの両方を書ける、という意味だけではない。顧客の話を聞く。まだ仕様になっていない要求を整理する。必要なら営業や採用のことも考える。エンジニアの仕事の外側まで含めて、事業を前へ進められる人である。

日本にそういう人がいないわけではない。ただ、自分の感覚では、日本ではエンジニアがスタートアップへ行くことや、職種の境界を越えて働くことが、まだ十分に一般的ではない。一方で海外まで見ると、すでにスタートアップを何社か経験し、曖昧な環境で何でもやることに慣れた人が候補に入ってくる。

海外のほうが必ず優秀だ、と言いたいわけではない。国ごとの人材市場を比較したデータもない。少なくとも自分たちにとっては、真にスタートアップ的なエンジニアを探すなら、最初から国籍で探索範囲を狭める理由がなかったという話である。

11人目に入れるより、3人目に入れるほうがよい

二つ目によかったのは、外国人メンバーをかなり早い段階で迎えられたことである。

10人の日本人で会社を作り、会議、文章、雑談、意思決定がすべて日本語でできあがったあと、11人目に日本語を母語としない人を入れる。これは、一人を採用する以上に大きな変更になる。本人が既存の会社へ合わせる場面も多くなる。

一方で、3人目や4人目なら、会社のやり方自体がまだ固まっていない。英語を使うのか、何を文章に残すのか、暗黙の了解をどう説明するのかを、一緒に作る側へ入ってもらえる。

今は日本人と外国人の比率が一対一に近い。外国人が一人だけ例外として存在するのではなく、複数の文化がある状態が最初から普通になっている。その結果、次に外国人を採ることや、さらに違う背景の人を迎えることへの心理的なハードルも下がった。

もちろん、初期ほど一人の影響は大きいので、外国人なら早く入れればよいわけではない。ただ、将来いろいろな国の人と働きたいなら、組織が日本語だけで完成する前に一人目を迎える意味は大きいと思う。

違う文化の人と、正論をぶつけ合う

三つ目によかったのは、自分たちと違う文化や世界の中で育った人と、会社のことを真剣に議論できることである。

日本の会社と日本の顧客だけを見ていると、「日本ではこうだから」が、そのまま正しいことに見えてくる。働き方、顧客との距離、エンジニアの役割、議論の仕方。限られた世界の常識を、世界の常識だと思い込みやすい。

そこに別の文化で育った人がいると、「なぜ、そうするのか」が戻ってくる。海外のやり方が正しいわけでも、日本のやり方が間違っているわけでもない。互いに正しいと思うことをぶつけることで、どちらも特定の環境でだけ成立する前提だったとわかることがある。

違う文化の人を入れる価値は、海外の正解を持ってきてもらうことではない。自分たちが正しいと思い込んでいた前提を、もう一度議論できるようにすることなのかもしれない。

ただし、外国人なら誰でもそうなるわけではない。距離感なく話せること、正論をぶつけても関係が壊れないこと、会社を良くするために本気で議論できることが前提になる。

一方で、社外の言葉の壁はかなり難しい

社内のコミュニケーションは、思っていたより何とかなる。英語と日本語を混ぜ、わからなければ言い直し、文章や図も使う。毎日一緒に働くので、互いの癖もわかってくる。

難しいのは社外、特に日本のお客さんとの会話である。

スタートアップでは、セールスだけでなくエンジニアも、お客さんと心の底から話す必要がある。言葉になった要望だけでなく、温度感や言い淀み、組織の中で本当に困っていることまで受け取り、それを製品へ戻さなければならない。

日本語を母語としていない人の場合、どうしても誰かが一段つないだり、あとで背景を補足したりする必要が出てくる。言葉を訳せても、「これは強い要望なのか、単なる感想なのか」といった文脈までは、そのまま運びにくい。

最近は同時通訳や文字起こしのツールもかなり使える。ツールを使えば、本人にお客さんのミーティングへ直接入ってもらえる場面は増える。完全に解消するわけではないが、言葉の壁を理由にエンジニアを顧客から遠ざけるより、道具を使いながら参加する機会を増やしたほうがよいと思っている。

ビザを考えると、まずは日本にいる人が現実的である

在留資格の手続きも、実際にやってみると難しい。すでに日本にいる人を雇う場合でも、会社として確認し、準備することがある。

日本に住んでいない人なら、在留資格だけでなく、入国、住居、生活の立ち上げまで考える必要がある。小さい会社にとって、この負担は小さくない。

少なくとも今の自分たちなら、まずは日本にいて、すでに日本で働く基盤がある人を優先したほうがよいと思っている。国外にいる人が悪いのではなく、そこまで受け入れられる会社側の体力がまだないからである。

「外国人」という括りは、実際にはかなり大きい

雇ってみて考えたのは、「外国人」と一つに括っても、国によって文化、制度、仕事観がかなり違うことである。同じ国の中でも、もちろん一人ずつ違う。

例えば食事だけでも、国、宗教、本人の考えによって食べられるものは変わる。今回のフランス人メンバーとは大きな問題になっていないが、インドを含むさまざまな国の人まで採用対象を広げれば、同じ店で全員が食べられるとは限らない。

だから「外国人を雇う」と先に決めるより、自分たちと本当に思想が合う人を探し、その人の文化や生活上の違いを一つずつ知るほうがよい。国籍で個人を決めつけないことと、国ごとの違いを何も見ないことは別である。

結局、外国人ではなく人を雇う

自分も採用前は、言葉の壁はどうなるのか、日本のハードワークな働き方と合うのか、外国人を正社員として雇うのは難しくないか、とかなり悩んだ。

実際に一緒に働いてみると、その心配の一部は当たり、一部は外れた。社外の言葉やビザはやはり難しい。一方で、働き方については心配する必要がなかった。むしろ、かなりちゃんと働いてくれているし、自分たちの会社のことを一番といってよいほど考えてくれている。

これは「フランス人はよく働く」という話ではない。今回、いい人と出会ってしまい、その人がたまたまフランス人だった、というのが一番正確である。

だから結論は、外国人を積極的に雇うべきだ、ではない。日本人でも外国人でも、距離感なく全部を話し、会社についてガチで議論できる人を雇う。その候補者の集合に、外国人も最初から入れておく。

国籍で人を選ぶのではなく、国籍で選択肢を閉じない。

言葉、ビザ、顧客との距離は、実際に難しいので一つずつ解く必要がある。それでも、少なくとも自分の中では、外国人を初期メンバーとして雇うことは、現実的な選択肢になった。

フランスについての蛇足

最後に、これは本筋から少し外れるが、フランスという国そのものにも興味が出た。

例えばフランスでは、リセの最終学年で哲学が共通科目に含まれ、バカロレアにも哲学の筆記試験がある。グランゼコールへの準備課程であるCPGEは、選抜された学生が2年間、国の課程に沿って複数分野を深く学ぶ仕組みになっている。議論や抽象的な思考を重く扱う教育が、制度として目に見える。

技術の世界では、Dockerを生んだSolomon Hykesはフランスで学んだフランス系アメリカ人であり、Snowflakeもフランス人の共同創業者Benoît DagevilleとThierry Cruanesを持つ。フランスには17のFrench Tech Capitalと、国内外97のコミュニティからなる支援ネットワークもある。

ただし、これらを並べても「フランスの教育が優れたエンジニアを生む」とまでは言えない。DockerやSnowflakeの成功を、国民性だけで説明することもできない。まして、目の前の一人の働き方を、教育制度から逆算することもできない。

それでも、哲学、数学、議論が教育や文化の中でどう扱われているかを知ると、今回一緒に働いて感じた議論の仕方とも、どこか接続して見える。これは因果関係の証明ではなく、あくまで一人と働いたことで増えた補助線である。