資金調達とは何か。
借金・株式・100人の良い会社。
「プレシードで数億円を調達」というニュースを見る。すごい。ただ、資金調達は賞金をもらうことではない。未来の何を、誰に約束するかを選ぶことなのだと思う。
01 — DEFINITION
資金調達は、未来のお金を現在へ移すこと
そもそも、なぜ会社は資金調達をするのだろう。簡単にいえば、今やりたいことに対して、今あるお金が足りないからである。
「プレシードで数億円を調達しました」というニュースを見ると、会社が数億円を獲得したように見える。でも、これは賞金ではない。その数億円を使って、もっと大きな未来を作る約束をしたというニュースである。
製品を作る。人を採る。工場を建てる。研究する。これらは、売上が立つより先にお金が出ていく。今月の売上だけで来月の投資を決めていると、事業機会に対して遅すぎることがある。そこで、将来得られるはずのお金や価値を根拠に、使える時点を手前へ動かす。
資金調達とは、お金を持っている人から足りない人へ移すことではなく、未来の価値を、現在の行動力へ変換することなのだと思う。
この定義にすると、資金調達の方法は金利や希薄化の比較だけではなくなる。大事なのは、未来の何を差し出して、今のお金を得るかである。
02 — THREE PROMISES
売上・借入・株式は、三つの未来の約束
自己資金も補助金もあるが、事業を動かすお金を大きく分けると、顧客から得る売上、金融機関などからの借入、投資家からの出資がある。エンジェル投資家やVCから受けるのは、通常は「借りる」ではなく「出資してもらう」である。
| 方法 | 誰から得るか | 代わりに約束するもの | 向いている場面 | 主な制約 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 顧客 | 商品やサービスの価値 | 早く顧客へ届け、事業単体で成長できる | 売れる範囲と速度でしか投資しにくい |
| 借入 | 銀行、信用金庫、公的金融機関など | 決められた元本と利息の返済 | 返済原資を見通しやすい設備・運転資金 | 事業が外れても返済は残る |
| 株式 | エンジェル、VC、事業会社など | 会社の持分と、成功時の大きなアップサイド | 不確実だが、当たれば大きく成長する挑戦 | 持分、情報、意思決定を外部株主と分かち合う |
借入は、成功しても返す額が際限なく増えるわけではない。一方で失敗しても、原則として返済義務は消えない。株式は、定期的な元本返済を前提にしない。一方で成功したときの価値を投資家と分ける。
どれが偉いわけでもない。未来の不確実性を、誰がどの形で負担するかが違う。
03 — COMPANY AS A PRODUCT
株式資金調達は、会社を金融商品として売ること
株式資金調達をするとき、会社は顧客向けのプロダクトであると同時に、投資家向けの金融商品になる。
投資家は、善意で赤字を埋めるのではない。同じ資金を別のスタートアップ、上場株、債券、あるいは他の資産へ配分できる。その中で、事業が失敗する可能性、株をすぐ売れない期間、追加投資が必要になる可能性を引き受ける。だから、そのリスクに見合う大きなリターンを期待する。
あなたの会社を株式として売るということは、ある種、OpenAIやGoogleやMicrosoftまで並んでいる棚に、自分の会社を金融商品として置くことである。「みんな違って、みんないい」ではなく、その中でもこの会社に賭けたいと思われなければならない。
もちろん、文字通りOpenAIやGoogle、Microsoftをすべて上回らなければ投資されない、という話ではない。投資家ごとに対象、期間、得意領域は違う。ただし「みんな違って、みんないい」では足りない。少なくとも同じ投資候補の中で、なぜこの会社が大きくなれるのかを説明する必要がある。
大きな市場
会社が成功したとき、投資額を大きく上回る企業価値を受け止められる市場があるか。
速い成長
よい会社であるだけでなく、限られたファンド期間の中で価値を大きくできるか。
競争優位
成長が見えたあとに競合が増えても、顧客、技術、データ、流通などの強みが残るか。
これは「会社は成長率だけを追えばよい」という意味ではない。顧客価値も、働く人の幸福も、社会への責任も必要である。ただ、VC型の株式を選ぶなら、それらに加えて、投資商品として成立する成長を背負う。
04 — RIGHTS AND CHOICES
株式を渡すと、未来の選択肢が変わる
株式資金調達の重さは、持株比率が薄まることだけではない。株主が増えるということは、会社の将来について正当な利害を持つ人が増えるということである。
優先株だから自動的にあらゆる拒否権が付くわけではない。ただし、種類株式の内容や投資契約では、新株発行、重要な組織変更、M&Aなどを事前承認事項にできる。投資ラウンドが増えるほど、条件や関係者が積み上がり、全員の利害をそろえるコストも上がりうる。
「そろそろ1〜2億円で会社を売りたい」「この先10年、無理に拡大せず中小企業として続けたい」。創業者にとっては十分によい未来でも、株式資金調達をした後は、自分一人だけでは選べない未来になることがある。
例えば創業者が、十分に良いと思える金額で会社を売りたいとする。それでも投資額、清算時の優先分配、投資家が期待するリターン、契約上の承認事項によっては、同じ金額を「良い出口」とは見られない株主がいる。逆に、条件設計と対話によってM&Aを選びやすくすることもできる。資金調達した瞬間に未来が一つへ固定されるわけではないが、何もなかった状態へ簡単には戻れない。
株式資金調達は、自由に使えるお金を増やす代わりに、会社の未来を一人で決める自由を減らす。
したがって「次も必ず調達するか、すぐExitするか」だけではない。黒字化して長く続ける道もある。しかしVCの資金を受けた以上、いつ、どうやって投資家が回収できるのかという問いは消えない。創業者だけが満足する中小企業へ静かに着地することは、以前より難しくなる。
05 — AFTER SEED
シードで売るのは可能性、その先で売るのは再現性
シードでは、まだ売上も製品も十分でなくても、チーム、技術、市場についての仮説で調達できることがある。失敗しても「Nice try」と言えるのは、そもそも不確実な挑戦へ投資する仕組みだからである。
ただし、失敗が許容されることと、結果への責任がないことは違う。投資家は複数社のポートフォリオで失敗を吸収できるが、会社は自社を一社しか持てない。調達した会社は、仮説を検証し、外れたら学び、残った資金と時間で次の可能性を作る責任を持つ。
シードなら「この可能性に賭ける」で調達できるかもしれない。でもシリーズA、シリーズBへ進むというのは、いつかカテゴリーリーダーになり、誰もが知る会社になりうることを、少しずつ証明していくということである。
シリーズA、Bと進むほど、物語だけでは足りなくなる。顧客が増える。売り方が再現する。使うほど強くなる。市場の中でカテゴリーを代表する可能性が見える。誰もが知る会社になることが厳密な条件ではないが、大きな会社になりうるという仮説を、数字と組織で証明し続けるゲームにはなる。
だから、株式資金調達は覚悟の証明ではなく、覚悟を必要とする契約なのだと思う。調達ニュースはゴールではない。会社が走るレーンを選んだというニュースである。
06 — THE MISSING MIDDLE
10人か1万人か。その間に、100人の良い会社がある
ここからは、まだ答えがない。
街を見渡せば、100人前後で顧客に深く入り、専門性が高く、きちんと利益を出している会社はたくさんある。全世界を取るカテゴリーリーダーではない。かといって、家族経営の小さな商店でもない。地域や産業にとって、なくなると困る会社である。
10人で成立する会社の作り方はある。1万人を目指す会社にはVCの資本がある。では、その間にある「100人くらいの、めちゃくちゃ良い会社」は、どうやって十分なスピードで作ればよいのだろう。
こういう会社は、もっと増えてもよいのではないかと思う。一方で、その成長を支える資金は両端へ寄りやすい。
返済できる会社へ貸す
銀行、地方銀行、信用金庫のデット。返済可能性を見通しやすい投資には強い。
安定 / 利息 / 元本返済良い会社を長く育てる
急成長だけでなく、雇用、配当、地域や産業への価値も含めて回収する資本。
継続成長 / 配当 / 長期保有巨大な会社へ賭ける
VC型のエクイティ。多数の失敗を含みながら、大きな成功でファンド全体を返す。
高速成長 / IPO・M&A / 大きなアップサイド銀行借入だけでは、不確実な新規事業や長い研究開発に踏み込みにくい。VC型の株式では、100人の良い会社で止まるとリターンが足りないかもしれない。売上だけで立ち上げると健全だが、顧客価値が見つかっても採用や設備への投資速度が足りないことがある。
この谷間は、会社の能力の問題だけではなく、資本側のプロダクト設計の問題なのかもしれない。
07 — OPEN QUESTION
ミドルリスク、ミドルリターンの資本はどこにあるのか
候補はある。劣後ローンなどのメザニン、売上に連動して返す資金、配当を重視する非上場株式、事業会社や地域金融機関による長期保有。デットとエクイティの間を埋めようとする手法自体は、すでにいくつも存在する。
ただ、名前があることと、広く使える市場があることは違う。返済を柔らかくすれば貸し手のリスクは上がる。議決権を弱くして配当だけで返そうとすれば、成長投資と配当が競合する。長期保有には、短期の時価やExit以外で「良い会社」を評価する眼が必要になる。
メガバンク、地方銀行、信用金庫が何十年もかけて作った企業との関係網と、VCが持つ新しい事業の不確実性を見る力。この二つを接続できないだろうか。返済可能性だけでも、ユニコーンの可能性だけでもなく、100人の良い会社になる過程へ資金を出す。
資金調達の方法は、会社の成長速度だけでなく、会社がどこへ向かうかを決める。だとすれば、会社の種類を増やすには、資本の種類も増やす必要がある。
株式資金調達を否定したいわけではない。大きなリスクを取り、世界的な会社を作るために、非常に強い発明である。ただ、すべての良い会社が同じ山頂を目指す必要はない。
10人の会社から1万人の会社へ飛ぶ道だけでなく、100人のめちゃくちゃ良い会社へ、十分な速度で登る道をどう作るのか。そのとき投資家は、何をリターンとして受け取るのか。まだよくわからないが、資金調達のニュースを見るたびに考えたいのは、調達額よりこちらの問いである。