出発点は、体 \(K\) 上で定義された代数多様体 \(X\) です。代数多様体とは、大まかに言えば、多項式方程式系の解集合のことです。体 \(K\) は、これらの多項式の係数が属する体です。
我々の目的のために、\(K\) を代数的閉体でない体、例えば有理数体 \(\mathbb{Q}\)、有限体 \(\mathbb{F}_q\)、またはp進体 \(\mathbb{Q}_p\) と考えましょう。目標は、代数的数の「対称性」がその幾何学的不変量にどのように作用するかを調べることによって、\(X\) の算術的性質を研究することです。
\(\bar{K}\) を \(K\) の分離閉包を表すものとします。これは、\(K\) に係数を持つ多項式のすべての根からなる体です。\(K\) の絶対ガロア群、記号で \(G_K = \text{Gal}(\bar{K}/K)\) と表されるものは、\(K\) の元を固定する \(\bar{K}\) のすべての自己同型からなります。この群は、\(K\) に対する代数的数の対称性を要約しています。
次に、我々の多様体 \(X\) の \(\bar{K}\) への基底変換を考えます。これは \(X_{\bar{K}} = X \times_{\text{Spec}(K)} \text{Spec}(\bar{K})\) と表されます。これは、\(X\) の定義方程式の解をより大きな体 \(\bar{K}\) で考えることと理解できます。
\[ \begin{CD} X_{\bar{K}} @>>> \text{Spec}(\bar{K}) \\ @VVV @VVV \\ X @>>> \text{Spec}(K) \end{CD} \]
ここで、\(X_{\bar{K}}\) は \(X\) の \(\bar{K}\) への引き戻し(fiber product)として定義されます。
代数多様体 \(X\) に対して、ザリスキ位相では得られない”位相的不変量”を捉えるために、以下の手順でエタールコホモロジーを構成します。
エタールサイトの定義
係数層(特に定数層)の用意
\[ \mathcal{F}(U)\;\to\;\prod_i\mathcal{F}(U_i) \rightrightarrows \prod_{i,j}\mathcal{F}(U_i\times_UU_j) \]
が等化子となる前層のこと。
グローバル断面関手と導来関手
\[ H^i_{\mathrm{et}}(X,\mathcal{F}) \;=\; R^i\Gamma\bigl(X_{\mathrm{et}},\mathcal{F}\bigr). \]
具体的計算法
インジェクティブ分解:層の圏におけるインジェクティブ分解を使い、\(\mathcal{F}\to I^\bullet\) から \(R^i\Gamma\) を計算
チェックコホモロジー:適切なエタール被覆 \(\{U_i\}\) によるチェック複体
\[ C^p = \prod_{i_0<\cdots<i_p}\mathcal{F}\bigl(U_{i_0}\times_X\cdots\times_XU_{i_p}\bigr), \]
のコホモロジーを取って得る
基礎定理:Proper/Smooth Base Change や Leray 準連続性定理を用いて、計算を簡単化
主要性質
これにより、エタールコホモロジー群
\[ H^i_{\mathrm{et}}(X,\mathbb{Z}/\ell^n),\quad H^i_{\mathrm{et}}(X,\mathbb{Q}_\ell) \]
が定義され、代数多様体の算術的・幾何学的性質を強力に捉える不変量として利用できます。
ガロア群 \(G_K\) の算術と多様体 \(X\) の幾何学との橋渡しとなるのは、エタールコホモロジー群へのガロア群の作用です。
元 \(\sigma \in G_K = \text{Gal}(\bar{K}/K)\) は \(\bar{K}\) の自己同型です。この自己同型は \(\bar{K}\) 上で定義された多様体上の射を誘導します: \[\text{id} \times \text{Spec}(\sigma): X_{\bar{K}} \to X_{\bar{K}}\]
この射は、関手性により、エタールコホモロジー群上の線形写像を誘導します: \[\sigma^*: H^i_{\text{ét}}(X_{\bar{K}}, \mathbb{Q}_{\ell}) \to H^i_{\text{ét}}(X_{\bar{K}}, \mathbb{Q}_{\ell})\] これにより、ガロア群 \(G_K\) からコホモロジーベクトル空間の可逆線形変換群(一般線形群)への写像が得られます。
\[ \begin{CD} G_K @>\sigma>> G_K \\ @V{\mathrm{作用}}VV @VV{\mathrm{作用}}V \\ X_{\bar K} @>{\mathrm{id}\times\mathrm{Spec}(\sigma)}>> X_{\bar K} \\ @V{H^i_{\mathrm{\acute{e}t}}\bigl(-,\mathbb{Q}_\ell\bigr)}VV @VV{H^i_{\mathrm{\acute{e}t}}\bigl(-,\mathbb{Q}_\ell\bigr)}V \\ H^i_{\mathrm{\acute{e}t}}\bigl(X_{\bar K},\mathbb{Q}_\ell\bigr) @>>{\sigma^*}> H^i_{\mathrm{\acute{e}t}}\bigl(X_{\bar K},\mathbb{Q}_\ell\bigr) \end{CD} \]
ガロア表現とは、ガロア群から行列群への連続な群準同型写像のことです。前のステップで説明した作用がまさにこれを提供します。
各整数 \(i \ge 0\) に対して、絶対ガロア群 \(G_K\) の \(X_{\bar{K}}\) の第 \(i\) 次 \(\ell\) 進エタールコホモロジー群への作用は、準同型写像を定義します: \[\rho_{X, i}: G_K \to \text{GL}(H^i_{\text{ét}}(X_{\bar{K}}, \mathbb{Q}_{\ell}))\] この準同型写像 \(\rho_{X, i}\) が \(X\) の第 \(i\) 次エタールコホモロジー群に付随するガロア表現です。
ここで、\(\text{GL}(H^i_{\text{ét}}(X_{\bar{K}}, \mathbb{Q}_{\ell}))\) はベクトル空間 \(H^i_{\text{ét}}(X_{\bar{K}}, \mathbb{Q}_{\ell})\) の可逆な \(\mathbb{Q}_{\ell}\) 線形変換の群です。このベクトル空間の次元が \(d_i\) である場合、基底を選ぶことにより、この群を \(\mathbb{Q}_{\ell}\) の元を成分とする可逆な \(d_i \times d_i\) 行列の群と同一視できます。これを \(\text{GL}_{d_i}(\mathbb{Q}_{\ell})\) と表します。
この準同型写像の連続性は、ガロア群 \(G_K\) のクルル位相と一般線形群の\(\ell\) 進位相に関するものです。
ガロア表現とエタールコホモロジーの互換性を、古典的で基礎的な例で説明しましょう:楕円曲線と保型形式の関係です。この例はフェルマーの最終定理の証明において中心的な役割を果たしました。
具体的な楕円曲線、つまり代数多様体の一種を考えてみましょう。
代数多様体(\(X\)): 方程式 \(y^2 = x^3 - x\) で定義される楕円曲線 \(E\) を考えます。これは有理数体 \(K = \mathbb{Q}\) 上で定義された多様体です。
ガロア群(\(G_K\)): 絶対ガロア群は \(G_{\mathbb{Q}} = \text{Gal}(\bar{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q})\) で、これは代数的数のすべての対称性を表しています。
エタールコホモロジー群(\(H^1_{\text{ét}}\)): 第1次 \(\ell\) 進エタールコホモロジー群 \(H^1_{\text{ét}}(E_{\bar{\mathbb{Q}}}, \mathbb{Q}_{\ell})\) に注目します。楕円曲線の場合、このベクトル空間は次元2を持ちます。このコホモロジー群は、複素数体(\(\bar{\mathbb{Q}}\) を含む)上の曲線の幾何学から構成されます。この構成の重要な部分は\(\ell\) 進テート加群 \(T_{\ell}(E)\) で、これはすべての \(n\) に対して曲線上の位数 \(\ell^n\) の点から構成されます。コホモロジー群は \(V_{\ell}(E) = T_{\ell}(E) \otimes_{\mathbb{Z}_{\ell}} \mathbb{Q}_{\ell}\) となります。
ガロア表現(\(\rho_{E, 1}\)): ガロア群 \(G_{\mathbb{Q}}\) は楕円曲線の有限位数の点に作用します。これらの点の座標は代数的数なので、元 \(\sigma \in G_{\mathbb{Q}}\) はこれらの座標に作用できます。この作用はコホモロジー群全体に拡張され、2次元のガロア表現を与えます: \[\rho_{E, \ell}: G_{\mathbb{Q}} \to \text{GL}(H^1_{\text{ét}}(E_{\bar{\mathbb{Q}}}, \mathbb{Q}_{\ell})) \cong \text{GL}_2(\mathbb{Q}_{\ell})\]
フロベニウス元からの算術情報: 素数 \(p\)(表現が不分岐である場合、この曲線では \(p \neq 2\) のすべて)に対して、フロベニウス元 \(\text{Frob}_p\) の作用を見ることができます。深い結果として、行列 \(\rho_{E, \ell}(\text{Frob}_p)\) のトレースは、方程式を \(p\) を法として還元したときの楕円曲線上の点の数と関係があります。\(y^2 \equiv x^3 - x \pmod{p}\) の曲線上の点の数を \(N_p\) とします。するとトレースは次式で与えられます: \[\text{Tr}(\rho_{E, \ell}(\text{Frob}_p)) = p + 1 - N_p\] 例えば、\(p=5\) を取ると、\(y^2 \equiv x^3 - x \pmod{5}\) 上の点は \((0,0), (1,0), (2, \pm 1), (3, \pm 1), (4,0)\) と無限遠点で、\(N_5 = 8\) となります。5でのフロベニウスのトレースは \(5+1-8 = -2\) です。
今度は、ガロア表現の完全に異なる源を見てみましょう:保型形式です。
保型形式: 具体的な保型形式を考えます。これは上半平面上の高度に対称な複素解析関数です。我々の楕円曲線に関連するものは、重さ2、レベル32のカスプ形式で、\(f(z)\) と表されます。そのフーリエ級数展開(またはq展開)は: \[f(z) = q - 2q^5 - 3q^9 + 6q^{13} + 2q^{17} - \dots = \sum_{n=1}^{\infty} a_n q^n\] ここで \(q = e^{2\pi i z}\) です。係数 \(a_n\) は整数です。
ガロア表現(\(\rho_{f, \ell}\)): デリーニュは、このような保型形式に2次元の \(\ell\) 進ガロア表現を関連付けることができることを証明しました: \[\rho_{f, \ell}: G_{\mathbb{Q}} \to \text{GL}_2(\mathbb{Q}_{\ell})\]
フロベニウス元からの算術情報: この表現は、不分岐な素数 \(p\)(この場合は \(p \neq 2\))に対して、フロベニウス元のトレースが単純に保型形式の第 \(p\) フーリエ係数であるという顕著な性質を持ちます: \[\text{Tr}(\rho_{f, \ell}(\text{Frob}_p)) = a_p\] 上の級数から、\(a_5 = -2\) であることがわかります。
保型性定理(ワイルズ、テイラーらによって証明された深い結果)は、楕円曲線 \(E\) から来るガロア表現が保型形式 \(f\) から来るガロア表現と同型であることを述べています。
\[\rho_{E, \ell} \cong \rho_{f, \ell}\]
これは、すべての素数 \(p \neq 2\) に対して、両方の表現におけるフロベニウス元のトレースが等しくなければならないことを意味します:
\[\underbrace{p + 1 - N_p}_{\text{楕円曲線の幾何学から}} = \underbrace{a_p}_{\text{保型形式のフーリエ係数から}}\]
\(p=5\) で確認してみましょう: 楕円曲線からのトレースは \(5 + 1 - N_5 = -2\) でした。 保型形式の第5係数は \(a_5 = -2\) です。
これらは一致します。これはすべての素数で成り立ちます。この驚くべき互換性は、大きく異なる二つの数学的世界を結びつけています:多項式方程式の解の幾何学的世界(楕円曲線)と高度に対称な関数の解析的世界(保型形式)です。共通のガロア表現を通じて確立されたこの橋渡しは、現代数論における最も深く、最も強力なアイデアの一つです。